行政書士として開業準備中の私が最初に目指した資格は社会福祉士。介護福祉士、精神保健福祉士と並ぶ、福祉系三大国家資格の1つです。
社会福祉士を目指した当初は、行政書士のことは当時流行っていた行政書士が主人公の漫画「カバチタレ」でその存在を知っていたくらい。まさか将来、資格取得はもちろん行政書士開業を目指すようになるとは思ってもいませんでした。
そんな状況から、なぜ行政書士の資格取得をしたのか。私自身の体験談をもとに、行政書士×社会福祉士のダブルライセンスに挑戦した5つ理由について解説します。
- 行政書士×社会福祉士のダブルライセンスの挑戦に迷っている人
- 福祉業界から行政書士への転職を考えている人
- 行政書士×社会福祉士のダブルライセンスのメリットを知りたい人

行政書士×社会福祉士のダブルライセンスに挑戦した5つの理由【体験談】
行政書士の資格取得を目指したのは、まだ社会福祉士養成校の専門学校に通っている頃でした。つまり、社会福祉士の資格取得以前のことです。
社会福祉士資格の勉強中の身であったにもかかわらず、行政書士資格に興味をもったのは、下記の5つの理由があります。
- 法学科目の受験対策になったから
- 福祉業界における法律の重要性を知ったから
- 相談業務という共通点があったから
- 社会福祉士を活かせる求人が少ないから
- 開業するには社会福祉士だけでは難しいと感じたから
それぞれについて、詳しく解説していきます。
社会福祉士の試験対策になったから
私が受験した約20年前の社会福祉士試験には「法学」という名の試験科目がありました。現在は「権利擁護と成年後見制度」となり、憲法、民法、行政法の基本的な知識が問われる科目となっています。
この「法学」が社会福祉士受験の最大の鬼門。法律初学者にとって馴染みのない条文解釈等、法律に関する問題は試験対策に苦労します。
「社会福祉士のテキストでは理解が進まない…」そんなときに出会ったのが、法律系資格の入門として位置づけられていた行政書士のテキストだったのです。行政書士の勉強も始めたことで苦手としていた法律科目を克服。社会福祉士にも無事合格できたことが、法律に興味を持つ始まりでもありました。
福祉業界における法律の重要性を知ったから
福祉業界に少しでも触れると、福祉制度や法律を知らないことが人の命に大きくかかわることを実感します。これは、さまざまな問題を抱えている福祉を必要としている人たちと行政機関を結びつけるコーディネーターの役割が大きいことを意味します。
まさに、それが社会福祉士の大きな役割の1つ。福祉を必要とする人たちのコーディネーターとしての役割を果たすには、福祉だけでなく、法律の知識を身に付けることは必要不可欠なことです。その点で法律の基本的な知識を幅広く学ぶことができる行政書士は、まさにうってつけの資格だったのです。
相談業務という共通点があったから
社会福祉士はいわずもがな、行政書士も街の法律家といわれるように、市民の身近な法律家として法律の知識を武器に人の役に立つための仕事です。その基本となるのが相談業務。相手の悩みに寄り添いながら問題を解決していくことは非常に似ている点です。
相談業務という共通点があることで「初めから行政書士を目指しておけば…」や「社会福祉士ではなく他の資格を取っておけば良かった…」等のネガティブな感情もなくなります。むしろ「行政書士の仕事をするために社会福祉士を取っておいて良かった!」と思えるようになったことは、大きな意味がありました。
社会福祉士を活かせる求人が少ないから
高齢者施設や医療施設等で人材難が叫ばれているのは、多くは施設利用者を介護する現場の仕事になります。つまり、現場職の介護福祉士や訪問介護員等と比較して、相談職の社会福祉士の求人は少ないということです。
社会福祉士資格を活かすことのできるソーシャルワーカー等の仕事は、大規模施設を除いて1つの施設に複数名必要とすることは希です。そのため、社会福祉士資格を持っていても、希望する職種に就けるとは限りません。
20年前は介護保険制度の開始や、星の金貨等の障がい者を主人公にしたドラマ等の影響もあり、ちょっとした福祉ブームの頃。医療施設や社会福祉協議会等の求人は人気が高く、就職が難しい時代でした。
結果的に当時の自分が希望するような職場を見つけることはできず、福祉業界に携わることはないまま現在に至っています。
独立開業するには社会福祉士だけでは難しいと感じたから
現在では社会福祉士資格1本で独立開業することも珍しいことではなくなりましたが、それでも社会福祉士の活かし方としては主流とはいえません。20年前はより顕著で、社会福祉士の開業者は殆どいませんでした。
今ほどネットが浸透していない時代でしたが、それでも、ネット検索で社会福祉士事務所を検索して名前がでてきたのは、2つ程度だったことを記憶しています。
一方、行政書士は独立開業してこそ意味のある資格。それは今も昔も変わりありません。その事実は、独立開業にも少なからず興味があった私にとって、行政書士の資格取得を目指す決定的な理由となりました。
【そもそも、福祉業界で働くことがムリだった!?】
繊細な性格で悩みが多く、だからこそ「人の悩みを解決したい」という動機で社会福祉士を目指す人は多いのではないでしょうか。しかし、現実的には、繊細すぎる性格では、福祉業界、ましてや社会福祉士がメインとするソーシャルワークの仕事は向いているとはいえません。
なぜならば、繊細すぎる性格は相手の気持ちを必要以上に考えてしまうあまり、影響を受けやすく、冷静な判断ができなくなることがあります。
福祉を志している人に求められるものとして「熱い心と冷たい頭」という言葉があります。簡潔にいえば、常に人に優しくあたたかい心を持ち、一方で冷静で客観的になれる頭があること意味します。
繊細すぎる性格の人には、この冷たい頭になれないことが多いからです。何を隠そう私自身がこの冷たい頭が決定的に欠如していました。
そのため、仕事としてではなく、ボランティア程度の距離感がないと、ドップリな福祉は自分には勤まらないと判断して福祉業界を諦めたのです。
※あくまでも、個人の経験をもとにした感想です。

行政書士×社会福祉士のダブルライセンス取得後に感じた3つのメリット
行政書士×社会福祉士のダブルライセンスは、実際に両方の資格取得をしたからこそのメリットを感じることがあります。それは行政書士で独立開業を決めてからより強くなっています。代表的なメリットを3つ説明します。
行政書士と福祉業界の相性が良い
行政書士として開業準備を進める中で、福祉業界との相性の良さを実感する場面が多くあります。以下にその代表例を紹介します。
福祉の知識・経験が活かせる業務がある
成年後見や障害福祉サービス事業の設立支援など、福祉分野の知識をダイレクトに活かせる行政書士業務があります。さらに、相続や遺言などの業務も「生活支援」という広い意味で福祉と関わりがあり、実務に福祉的な視点が求められる場面は少なくありません。
行政とのつながりが深い
行政書士の業務は官公署への書類提出が中心であり、行政とのやりとりが欠かせません。福祉分野ではさらに行政主導の制度や手続きが多く、福祉系国家資格を持っていることで、行政や依頼者から一定の信頼を得やすくなります。
福祉の視点が新しい業務につながる
行政書士の業務範囲は広く、近年は福祉的な視点があらゆる分野で重視されています。社会福祉士などの専門資格を持つ行政書士は、福祉と法律を掛け合わせた独自のサービス展開が可能で、新しい業務分野の開拓にもつながります。
福祉業界に人脈ができる
社会福祉士の資格取得をするためには、後述するように養成学校や研修施設等で多くの福祉に携わる人との関わりをもつことになります。
私自身は社会福祉士養成校を卒業して20年以上経ちますが、福祉業界に携わっていないのにも関わらず交流は続いています。福祉業界では、社会福祉士はエリート資格ともいえるため、当時の同級生は施設長をはじめとして役職者ばかり。
一般的な会社や学校でも人脈をつくることは可能ですが、上記「行政書士と福祉の相性がよい」でもお伝えしたように、福祉業界における人脈できることは、行政書士業務の受任はもちろん、業務の幅を広げる効果も期待できます。
傾聴の姿勢が身に付いている
相手の立場に立ち、共感しながら話を聞くことを「傾聴」といいます。これは福祉に携わる人にとっては必須スキルであり、社会福祉士の勉強過程でも必ず学ぶことです。
そのため、福祉に携わっている人の多くは、「まずは相手の声を聴く」という当たり前でありながら、実は難しい対応を身に付けることができます。
語弊があることを承知でいえば、法律だけを学んでいると論理的思考が強くなるあまり、相手の話に論理的破綻がある場合、まったく聴く耳を持たなくなり、自己の主張だけが強まる傾向があるように思います。
いくら専門的な法律知識を備え、弁がたったとしても、相手の立場になれないようでは、仕事を受任することが難しくなることは明白です。
その意味で、相手の声を聴く姿勢が身に付いていることは、行政書士業務をするうえでも大きな武器になります。
行政書士×社会福祉士のダブルライセンスを取得する以前に、行政書士の資格取得自体に意味がないという声を耳にすることがあります。
しかし、私自身は行政書士を取って良かったと思えることがたくさんあります。行政書士に合格してから約20年経過した今だから言える行政書士の資格取得で感じたメリットについて下記の記事で解説しています。

行政書士から社会福祉士へのルートがオススメできない理由
ここまでの内容を聞くと、行政書士のダブルライセンスとして、社会福祉士を目指すことをオススメしているように感じるかも知れません。
しかし、結論をいえば、私自身の経験上、行政書士の資格取得者が社会福祉士を目指すことは、オススメできない2つの大きな理由があります。
時間と労力が掛かるから
最新2024年度の行政書士と社会福祉士の合格率は、行政書士12.90%、社会福祉士56.3%となっています。近年の合格率を比較すると、行政書士は10%前後で変わりなく推移していますが、かつては20%台だった社会福祉士の合格率は50%台に大幅に上昇しています。
合格率だけをみれば、行政書士の方が社会福祉士よりも難易度は高い資格になりますが、実際に両方の試験を受けた私の印象としては、行政書士の方が社会福祉士よりも倍以上の難易度を感じました。
それは資格試験の難しさよりも、社会福祉士は一般的に受験資格を得るために福祉系の学校へ通わなければならず、行政書士以上に時間と労力が掛かったためです。
社会福祉士の受験資格を得るためには、最短の福祉系大学卒業のルートでも4年。いずれのルートを選択しても、福祉系の大学や短大、専門学校等に通う必要があるため、当然、出費も大きいことになります。
社会福祉士になるためには、さまざまなルートが存在します。大きく分けると下記の3つのルートになります。
➀福祉系大学・短大等で指定科目を履修する
➁福祉系大学・短大等で基礎科目を履修後、短期養成施設等に修学する
③一般大学・短大等を卒業後、一般養成施設等に修学する
※それぞれの大学・短大の年数により、相談援助の実務経験が必要になる等、上記ルートはさらに細分化され、計12のルートがあります。詳しくは、社会福祉振興・試験センターのHPをご覧ください。
ちなみに私は上記③のルートで、一般大学(4年)卒業後、一度就職。その後、会社を辞め、夜間の一般養成施設(1年)に通い受験資格を得ました。一般養成施設の学費は約120万円。やはり、お金と時を費やすことは覚悟しなければなりません。
社会福祉士は名称独占の資格だから
社会福祉士には、行政書士の許認可業務のような独占業務はありません。あくまでも、「社会福祉士」を名乗ることができるという名称独占の資格です。
福祉に関係する行政書士業務をしていくうえで「社会福祉士」の名前を出せることは、相手に対して信頼感を与えることはできるものの、前述したお金と時間に見合うメリットがあるとはいえません。
それでも行政書士から社会福祉士のダブルライセンスを目指したいという人は、下記の2点が必要になります。
・大前提として、お金と時間に余裕があること
・行政書士ではなく、社会福祉士の仕事をメインに考えていること
この2点をクリアできるのであれば、他の福祉系資格の中で、社会福祉士はもっとも行政書士と相性が良い資格としてオススメです。

社会福祉士から行政書士の資格取得は超オススメ!
行政書士から社会福祉士の資格取得がオススメできない一方で、その逆となる社会福祉士から行政書士の資格取得は、実際に同じルートで資格を取得した私自身の経験も踏まえてオススメできます。
それは、これまでにお伝えした行政書士×社会福祉士のダブルライセンスに挑戦した5つの理由
- 法学科目の受験対策になったから
- 福祉の仕事おける法律の重要性を知ったから
- 相談業務という共通点があったから
- 社会福祉士を活かせる求人が少ないから
- 独立開業するには社会福祉士だけでは難しいと感じたから
そして、行政書士×社会福祉士のダブルライセンスを取得後に感じた3つのメリット
- 行政書士と福祉業界の相性がよい
- 福祉業界に人脈ができる
- 傾聴の姿勢が身に付いている
さらに、行政書士試験に受験資格は必要なく、許認可の独占業務がある資格であることも魅力。特に独立開業を目指す人ならとって、コスパや有用性等、どれをとっても、社会福祉士のダブルライセンスとしてオススメの資格です。
関連記事:社会福祉士を活かすために行政書士の資格取得をオススメする5つの理由

まとめ:行政書士×社会福祉士のダブルライセンスに挑戦した5つの理由【メリットも紹介】
資格試験には一種の中毒性があります。1つ資格を取得すると、明確な目的もなく次の資格挑戦への繰り返しで、いつのまにか資格を取ることが目的になり、何になりたいのかもわからなくなることがあります。
そのため、社会福祉士に限らず、安易に行政書士とのダブルライセンスを目指すことはオススメできません。
一方で、資格取得をすることに、しっかりとした目的さえあれば、ダブルライセンスのメリットは大きく、行政書士業務をするうえでの強みになるものです。
今回の記事が行政書士×社会福祉士のダブルライセンスを考えている人にとって、少しでも参考になる情報を提供できたなら幸いです。