「行政書士では食べていけない」という決まり文句のような言葉があります。この言葉を真に受け、行政書士合格後、他の資格取得を目指す方も多いのではないでしょうか。
そもそも、自分自身が「行政書士資格だけでは、ちょっと弱いかも・・・」という明確な根拠のない理由で、別の資格に挑戦していた時期がありました。その結果、行政書士の資格取得から約20年に及ぶ迷走期へ突入・・・
そんな私の資格挑戦に迷走する経験談をもとに、行政書士資格一本で開業をオススメする理由をご紹介します。
- 行政書士の開業にはダブルライセンスが必要か知りたい人
- 行政書士以外の資格試験を目指した経緯を知りたい人
- 行政書士一本で開業するオススメ理由を知りたい人
本当にダブルライセンスは必要ないのか?
私自身の資格挑戦は、行政書士の資格挑戦の前に遡ります。そもそも、行政書士資格が私が初めて取得した資格ではありませんでした。まずは、私の資格挑戦の迷走過程とその結果について説明します。
ダブルライセンス取得のために迷走を繰り返す
私がこれまで資格挑戦をしてきた過程は、こんな感じです
福祉系国家資格「社会福祉士」の資格取得を目指す
約20年以上前の話になりますが、高齢化社会の到来により、介護保険法の成立や福祉系ドラマが放送されるなど、世間一般にも福祉業界に注目が集まっていた時期がありました。
当時私は社会人2年目。社会の厳しさに疲れ果て、悶々とする日々を過ごしていました。もともと興味があった福祉業界に脚光が浴びていることが頭から離れず、会社を退職して福祉業界で働くことを決意。
そしてアルバイトをしながら、受験資格を得るために専門学校に通い、社会福祉士の試験に合格。しかし、ここから資格取得のための迷走の旅がスタートすることになります。

「行政書士」の資格取得を目指す
行政書士の資格に興味を持ったのは、社会福祉士の試験科目のなかに法学があったことから。社会福祉士の資格科目の中で、法学は他の科目とは異質であることもあり、受験者にとっては鬼門となる科目だったからです。そのため、社会福祉士の法学を攻略するための手段の1つとして、行政書士資格の参考書を手にしていたことが始まりでした。
無事、社会福祉士には合格したものの、特に就職するモチベーションはあがらず、なんとなく行政書士資格の受験勉強を続けていました。
当然のことながら、行政書士になりたかった訳ではありません。なんとなく法律は面白いし、当時は法律系のバラエティ番組が流行(私の中でも福祉ブームから法律ブームに変わる)。そして、世間的にも名のある法律系士業の行政書士なら「ちょっとスゴいと思われるかも!?」くらいの軽い気持ちでした。そして行政書士試験に挑んだ結果、まさかの合格。
しかし、よくよく行政書士について調べてみると「食べていくことは難しい資格らしい」という当時からあった出所不明の情報を鵜呑みにして、上位資格の挑戦を続けることに・・・。
「司法書士」と「社会保険労務士」の資格取得を目指す
さななるターゲットになった資格は、士業の中でも超難問資格の1つ、司法書士。司法書士を目指した理由は、受験科目に行政書士と同じ民法があるからという単純な理由。参考書を一部購入し、ペラペラと捲って「なんとなくイケそうなのでは?」と根拠のない自信を持もったものの、次第に行政書士とは比較にならない試験範囲の広さと深さに「このまま勉強していても、受かる保証はないのでは?」と感じ始め、3カ月も経たずにターゲットを別資格へ方向転換。
そして次のターゲットとなったのは、これまた難問と言われる社会保険労務士。社会保険労務士を目指した理由は、当時のオススメ資格を紹介する本のなかに、社会保険労務士がイチオシになっていたこと。当時の情報に振り回されていた自分は、我ながら安易としかいいようがありません。
もちろん、司法書士も社会保険労務士も行政書士と相性のよい資格ということはわかってはいました。「だから、資格取得すればきっと役に立つ」その程度の認識です。
結局のところ、世間体も含め、就職しないための理由として、資格勉強を続けていたというのが本音だったのです。

ダブルライセンス取得を目指した結果
社会保険労務士の資格を目指してから、これまた3カ月も経たないうちに人生の大きな決断を迫られる出来事が起きます。それは、当時のアルバイト先から、正社員の誘いを受けたことでした。
既に年齢は30超え、明確な目的意識のないまま資格勉強を続けている状況を考えれば、断る理由はありませんでした。
そして、いざ正社員面接へ。面接官から言われたことは、「30歳超えているもんね・・・正社員は最後のチャンスかな」この是非はともかく、当時から世間の見方はそんなものです。
そして、あれだけ頑張って取得してきた資格については、特に触れられることもないまま、面接は終了。そして、社会福祉士を目指して始めた資格取得の迷走旅は、社会福祉士も行政書士もまったく活かすことができないアルバイト先に就職という結末となったのです。
それから約20年以上の時を経て、行政書士で開業を目指すことになりますが、このような長い長い迷走をしていたからこそ、ダブルライセンスにこだわる必要はなく、むしろ行政書士資格一本で開業がベストではないかと感じています。
以上を踏まえて、行政書士資格一本で開業をオススメする理由について解説していきます。


行政書士資格一本で開業をオススメする5つの理由
普通に考えれば行政書士資格一本よりも、ダブルライセンスで開業する方が、知識も増え、顧客の信頼性も向上し、業務範囲も広がる等、多くのメリットを享受できるように感じます。しかし、あえて、行政書士資格一本で開業をオススメするには以下の5つの理由があるからです。
時間と費用がかかる
もっとも現実的な問題として、資格取得までには時間と金がかかります。例として、合格までの学習時間の目安は、司法書士が3000時間、社会保険労務士で1000時間といわれています。行政書士が800時間といわれていることを考えれば、相当の時間を費やさなければならないことがわかります。
また、行政書士よりも上位資格を目指すとなれば、学習のために掛かる参考書等の費用も無視できません、そもそも行政書士までなら、なんとか独格でも合格可能ですが、それ以上となると資格予備校の受講等の必要性も高まります。
当然のことながら、学習時間に比例して資格取得にかかる費用も多くなります。行政書士で開業するにあたり、ダブルライセンス取得のために、それだけの時間・費用を掛ける意味があるのかと考えれば、そこまでの理由は見当たりません。
時間や不要がかかるのは、資格取得までだけではありません。無事資格を取得できたとしても、その資格により登録料や会費等の費用がかかる場合があります。また、当然合格後も勉強を継続する必要があり、別士業の付き合いも増えれば、交際費等の出費もかさみます。
もちろん、知識の幅や人脈が広がる等のメリットは計り知れませんが、資格取得によるデメリットにも目を向ける必要があります。
資格取得できるとは限らない
そもそも時間と費用を掛けても、行政書士以上の上位資格となれば、確実に資格取得できる保証はありません。
私自身が司法書士と社会保険労務士の資格勉強をした経験をもとにすれば、あくまで個人的な印象ですが、合格の可能性は以下の感覚でした。
- 司法書士は、時間と費用を掛けても合格の保証はない
- 社会保険労務士は、時間と費用をかければ合格の可能性はある
もちろん、あくまでも個人的な感覚のため、当然のことながら、人によっては「余裕で合格!」と感じる人もいるでしょう。ただし、そのような人は、そもそもこの記事を読むような人ではないと思われます。
おそらく多くの人は、ギリギリのところで行政書士に合格し、新たな道を探っているのではないでしょうか。
そのような状況で、資格取得できるとは限らないものに、貴重な時間と費用を掛けるメリットは感じられません。
今回の記事で取り上げている資格のそれぞれの近年の合格率の推移は、司法書士が3~5%、社会保険労務士5~7%です。行政書士の合格率が10%前後であることと比較すれば、かなりの難関資格であることがわかります。
一概に合格率だけで難易度は計れるものではないものの、法律系資格としては比較的難易度が低く、基本的に誰でも受験できる行政書士と比べれば、そもそも受験者層が異なります。誤解を恐れずにいえば、行政書士は誰でも合格できる可能性がある試験。それ以上の上位資格は、合格できない可能性を想定しておかなければいけない試験です。
専門性がブレる
行政書士は扱える書類が1万種類以上、業務範囲も広く、専門業務を決めるのに迷う開業者は多くいます。実際、今急増している行政書士YouTuberが、専門業務をテーマにした動画を数多く配信していることも、その事実を裏付けています。
そして行政書士YouTuberに限らず、多くの行政書士の先生の結論は、専門業務を絞るべきとの意見が圧倒的です。
このことを踏まえ、もし、行政書士の専門業務すら決められずにダブルライセンスを目指すのであれば、ますます目指すべき専門業務がブレることになります。
私は前述したように、社会福祉士の資格をもっていますが、行政書士の合格前に既に取得していた資格でした。
社会福祉士といえば、成年後見業務や障害施設の法人設立等、行政書士との親和性が高い業務があります。しかし、このことがかえって私を悩ませることになりました。
行政書士で開業するにあたり、「社会福祉士と親和性の高い業務を専門した方がよいのではないか?」という迷いです。
ただでさえ、優柔不断な私。余計なことに時間を費やす結果となりました。もちろん、社会福祉士を取得したことを後悔している訳ではありません。今後有効に活用できるのではないかと期待もしています。
しかし、行政書士開業を控えている今、もし、これから社会福祉士の資格を新たに目指すかといわれれば、その選択はしないでしょう。

資格取得が目的になってしまう
私のこれまでの資格取得迷走記を読んでいただければわかりますが、そもそも私には、ダブルライセンスを目指す明確な目的がありませんでた。それは、当時の時流や情報だけをもとに資格取得を目指しており、そもそも資格取得することが目的になっていたということです。
「行政書士資格だけでは、自分のやりたい目的を果たすことができない」と思うのであれば、何も問題はありません。
しかし、かつての私のような考え方であれば、開業も就職もできず、いつまでも資格挑戦を繰り返すだけの目的がない旅に出てしまうことになります。

行政書士でも食べていける
残念ながら、最初にもお伝えしたように「行政書士では食べられない」という言葉を頻繁に耳にすることがあります。
この是非はいったん置いて、では「行政書士とのダブルライセンスであれば食べられるのか?」といえば、そんなことはないはずです。
行政書士で食べられなければ、おそらくダブルライセンスで開業しても食べていくことは難しいでしょう。
食べられないというのは、行政書士資格一本で開業することが理由ではないからです。
私は開業するにあたり、多くの行政書士の実態を確認し、実際に行政書士の先生にお会いして話す機会もありましたが、行政書士一本で開業して成功している先生は多くいらっしゃいます。
「行政書士では食べていけない」からダブルライセンスを目指すことは、まさしく本末転倒。行政書士でも食べていけるなら、行政書士一本で開業することに支障はないはずです。


おわりに
恐ろしいほどの浅はかな自分の資格挑戦の迷走記でしたが、いかがでしょう。同じような考えの方や、もしくは既に私と同じ迷走の旅に出ている人はいませんか?
今回の記事を読んでいただいた結果、自分には当てはまらないと感じるのであれば、むしろ、ダブルライセンスを取ることはきっとプラスになるのではないかと感じます。
しかし、私と同じような迷走をしていると気付かれた方は、もう一度、本質を見極めることが必要になります。
私のように余計な遠回りにならないように、今回の記事が少しでもお役にたったなら幸いです。

